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朝ごはん

だめんず

それは夜も遅くから始まった会社以外で私が関わっている仕事に関する打ち合わせの場の出来事。

「アンタの元カレって朝ごはん作る人やってんなぁ?」
いきなり、そんな言葉が降ってきた。でも、それは私への問いかけではなく、向いに座っていた彼女に向けられたものだった。
彼女は、最近別れたばかりだから、と前置きして、ビールを一口飲んで
「その話はちょっと。。。。」
と口ごもってしまった。
何の話題をしていてこんな質問が降ってきたのか知らなかったけど、彼女の代りに私が話題を引き継いで
「私の元カレも朝ごはん作る人だったよ」
と彼女に向かって言った。質問をした友人は私の彼氏を知っているので
「Sちゃんって朝ごはん作る人やったんや!」
と、意外そうに笑った。

「別れる最後の日の朝もしっかり作ってもらって2人で食べてましたよ」
と言うと、
「別れるって決めた後も作ってもらってたの?!」
なんて、また笑われたので、ちょっと調子に乗ってしまった。

「泊まりに行ってる間に別れるって決めたけど、それそのものは修羅場じゃなかったから、決めた翌朝も別にフツーっていうか、朝ごはん作ってもらっていつも通り2人で食べて、食べた後は品川まで送ってもらった。。」
「品川ってアンタ、別れた彼氏に送らせたン?」
「あ、品川じゃないや。品川で荷物をおろして、彼氏は学校に行くから田町まで一緒に山手線に乗って、田町で『じゃーねー、バイバーイ』って別れて、私はその後、新橋に別の男に会いに行った(笑)あ、男って意味深な人じゃなくって、ただの友達ですよ。」

ずっと話を聞いてた友人の仕事仲間の男性が口をはさんできた。
「俺、そのことより彼氏のことがよく分からんな。別れた後やろ?」
「別れたって言っても、修羅場じゃなかったし、泊まりに行ってたからあえてフツーっていうか、別れたから特別ってこともなかったですよ」
「そんなもんかねー。俺にはよく分からん世界やなぁ。」

そう、あの朝、私が泣きはらした目をしていた以外は、何もかもがフツーで、すかんちの「Thank You」の歌詞のようだった。
「どーしよー。初対面の人に目が腫れた顔見せたくないよー」
と、腫れを少しでもひかせようと冷やしてみたり、温めてみたりを繰り返す私を見て、
「そんだけ楽しみにしてるってことやろ」
と言いながら、いつも通り朝ごはんを作って紅茶にミルクを添えてだしてくれた。
彼氏が作るベーコンエッグは、時々、片っぽがつぶれてた。
そんな時は、つぶれた方を私に出さず自分で食べてた。
あの日の朝、ちょうど良い半熟状態だったベーコンエッグをトーストの上にのせて大口あけて食べようとしたら失敗して、まるで小さなお子ちゃまのように黄身をこぼした私を見て
「あー、もう、世話が焼けるなっ」
とタオルを投げてきた。

私の重い荷物を担いで品川まで送ってくれて、荷物を預けた後、ちょっと身繕いしたいから
「先に(学校のある田町に)行ってよ」
と言っても
「いや、待ってる」
と、じっと待っていた。
田町の駅で、これまたいつも通りキスを交わして「じゃあね」と別れた。
「別れた」とお互いが意識した以外は、何もかもがいつも通りだった。
ただ、そこから先が、いつもとは違う日々を始めた。

遠距離で普段は会えないから、せめて会っている時間は楽しいものにしたい、と、最後の頃は切ないくらいお互いがそう願い、実行してきた私たちにとってこれ以上「らしい」別れ方はなかった、と今、振り返ってみて思う。