見合いの顛末(その8)

帰り道が地下鉄で途中まで一緒だったのだけど、何度となく途中で

「やっぱり一杯していかない?」

というようなことを見合い相手は言ってきたけど、

「今日はちょっと疲れてるから」

と却下。
後もう少しで終わると思いながら地下鉄に乗るやいなや、見合い相手が

「とりあえず携帯の番号教えて」

と言ってきた。

ゲッ。。これだから最近の見合いは困るのだ。。

以前だったら仲人を通してじゃないと連絡が来なかったのに、
今や携帯のおかげで良くも悪くも仲介無しで連絡がとれてしまう。
映画館の中で携帯の電源を切ったのを見られてるから、
持ってないと嘘もつけない。
教えたくなかったけど、本人の手前、イヤと言えなかった。
後で

「『とりあえず』なんて言う人には教えない」

とでも言えば良かった、と思ったのだけど、
その時は「どうしよう!教えたくないよ!」とパニックになって
そこまで考えが至らなかったのだ。

渋々携帯をバッグから取り出し電源を入れる。
電話番号は記憶していたけど、無意味な時間稼ぎだった。
番号を伝え、相手は自分の携帯に入力した。
その携帯の画面を見て番号が一つ間違っていることに気づいた。
あ、間違ってる。。と気づいたその時、

「今僕からかけるから」

といきなり通話ボタンを押し始めた。
違う人の携帯にかかっちゃう!と焦る私。
そこで神様は私に味方したのである。
そう、電車が動き出して携帯の電波が圏外になったのだ。
焦り狂う私の前で

「あ、圏外になってしまった」

と、見合い相手が言った為、少し胸をなで下ろした。
地下鉄だし、もうかけないだろう、と自分の携帯をバッグに戻した。
ところが、次の駅に着いたら見合い相手はいきなり電話をかけ始めたのらしい。
見合い相手が涼しい顔で

「今、携帯を鳴らしたから、僕の番号はそっちに登録されたよ」

と言ったので分かったのだ。
登録した番号が間違っているので、当然私の携帯に着信するわけがない。
。。。ってことは、携帯の番号を教えないで済んだ?!

うそ?! マジ?! 
ラーーーーーッキィーーーーーー!!!


私が着信を確認することを強要しなかった為、
私はバッグから携帯を出さなかった。
そこから別れるまで、携帯の話題にならないように
必死になって私から質問をしまくった。
別れた後、さっきの映画のラストでユマ・サーマン
「私は悪いオンナだから」
というセリフを自分で言ってみて笑いが止まらなくなりそうだった。

とはいえ、疲れがどーっと出てきた。
家に帰ったら、Amazonから本が届いていた。
長らく待っていた敬愛する風吹晏名サマの本が到着したのだ。
「今日は夜美女の放送日でもあるし、晏名サマに免じて許してやる。」
と思ったのだった。